「橋本病(慢性甲状腺炎)」などによって(軽度の)甲状腺機能低下症と呼ばれる状態になると、以下のような影響が現れます。
- 月経不順や排卵障害
- 妊娠率の低下
- 流産率の上昇
甲状腺ホルモンと不妊

甲状腺は首の前側にある小さな臓器で、体の代謝やエネルギー調整を担うホルモンを分泌しています。この甲状腺ホルモンは、実は女性の月経周期や排卵、妊娠維持にも密接に関係しています。特に妊娠を望む女性にとって、甲状腺ホルモンの過不足は不妊症や流産のリスクに関係する重要なポイントです。
不妊症の原因として軽度の甲状腺機能低下症も関連していることが知られています。甲状腺機能低下症の多くは、橋本病で、そのほかにバセドウ病治療後などがあります。甲状腺ホルモンは妊娠してからも胎児の神経系の発達形成に重要な役割を果たします。安定期までは胎児の甲状腺は未発達なので母体の甲状腺ホルモン(T4)を利用するため、妊娠後も適正量の補充療法継続が必要になります。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」などによって(軽度の)甲状腺機能低下症と呼ばれる状態になると、以下のような影響が現れます。
橋本病関連で現在臨床にてよく利用されるものに、下記の2つがあります。
このうち、妊娠に影響することが報告されているのは、抗TPO抗体です。抗TPO抗体が陽性か、TSHは4以上・2.5以上か、などから治療(甲状腺ホルモンの補充療法)の必要性を判断します。抗TPO抗体が陽性の場合はより注意しながら治療を行います。
また、妊娠が成立した場合、どちらの抗体も胎盤を通じて胎児へ移行しますが、TSH受容体抗体(バセドウ病関連抗体)のように児の甲状腺機能に影響は与えないとされています。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるバセドウ病でも、月経異常・排卵障害が生じ、不妊につながる可能性や、妊娠中毒症のリスクがあります。バセドウ病は若い女性に多くみられるため、妊娠を希望する世代では注意が必要ですが、適切な治療を行うことで、妊娠継続が望めます。

甲状腺ホルモンに異常があった場合でも、適切な治療を行えば妊娠できる可能性は十分にあります。また、すでにバセドウ病や甲状腺機能低下症の治療をしている場合には、計画妊娠が必要です。具体的には、バセドウ病治療薬では催奇形性リスクを考えた薬剤選択や内服薬以外の治療選択、甲状腺機能低下症治療薬では用量調整が必要になります。
治療後も妊娠に至らない場合は、婦人科領域のさらなる検査や治療を検討しましょう。甲状腺の異常は、疲れやすさ、冷え、気分の落ち込みといった見逃されがちな症状が多く、自覚しにくい特徴があります。妊活中の方や不妊治療中の方で気になる症状がある場合は、一度甲状腺機能の検査を受けてみることをおすすめします。
妊娠、出産の時期で母体は免疫状態を劇的に変えます。バセドウ病、橋本病などはいずれも自己免疫疾患ですので、妊娠中、出産後しばらく安定していても、産後2~3ヶ月、半年くらい経ってから甲状腺ホルモン異常が出現することが多くあります。いわゆる産後の肥立ち悪いという時に、特に甲状腺の自己免疫疾患をお持ちの方は、甲状腺機能の検査を受けることをお勧めします。
TOP